夏の全生庵で「落語と幽霊画を愉しむ」2022
東京都台東区谷中にある「全生庵」というお寺では
毎年8月の1か月間「幽霊画展」を開催しております。
こちらの内容詳細に関しましては、全生庵さまのHPや
ファンの方の記事、またメディアでも多く取り上げられていますので
そちらを参考にされてくださいね。
私は、というと
初めてお仕事で都内を行き来させていただいた頃からですので
ファン歴はまだ7年程度なのですが
これもまた、毎年楽しみにお伺いしております。
今年はなんと、株式会社プレジデント社さま主催
【PRESIDENT経営者カレッジ】ビジネスと人生のための教養
「落語と幽霊画を愉しむ」を受講させていただきました。
「日本美術」と「落語」という日本古来の伝統文化に触れることのできる、大変貴重な体験でした。
なぜ、私が「幽霊画」に惹かれるのか…?
日本の幽霊画はなぜ、ここまで私を魅了するのか?
自分でもわからなかったその心境を、今回の落語のお題目より、
ようやくはっきりと自覚することが出来ました。
「幽霊」とは?
この世に未練を残してさまよう魂なのか?
それとも生きている人間の怨念の形なのか?
そこにはやり切れないほどの哀しい想いと
時代背景が関係していて
「幽霊=女性」が多い所以もうなずける点がたくさんありました。
いやぁ、怖い話ですよと住職はおっしゃいましたが
日本の怪談話に、私は「怖い」とはあまり感じず
やはりこれも、切なくて、とても哀しい。
成就されない想いや、気持ちのすれ違い、男女の格差や暮らしの格差で
叶えられない想いや未練が渦巻いている。
簡単に、あらすじを記載しましょう。
「怪談・真景累ヶ淵」から「豊志賀の死」
芸の教室をしていた豊志賀(とよしが)は
身持ちも固く女っぷりも良かったので
男女それぞれのお弟子さんを抱え
お教室は大盛況だったのだが
ふとしたことから
親子ほど年の離れた弟子の1人と深い仲になってしまう
豊志賀は新吉(しんきち)が可愛いくて仕方がない
それが傍目に見えだすと
お弟子さんが次々と離れて、次第に2人は、生活に困るようになって行く
その頃から豊志賀の顔に出来物が出来だす
さらにそれは大きくなり
ついには目が潰れるほどに腫れあがる
日に日に衰えて
あれだけ美しかった自分の姿は
痩せこけて、起きあがれず
顔の出来物は腫れ上がり
まるで化け物のようになって行く
不遇に苦しむ若い娘お久(おひさ)は、それでも稽古に通い続け
対応する新吉との姿を目にする度に
豊志賀は激しく嫉妬するようになるのだ
若く美しいお久は、差し入れを持参して
醜い自分の見舞いに訪れ
自分の恋人と、楽しげに話をしている…
悔しくて、悲しくて、許せない、
病気の自分も、年老いた自分も、お久に優しく応対する恋人も許せない
そこから、悲劇が始まるのですが…
まぁ、今で言うところの「ストレス」ですよね。
親子ほど年の離れた
若く美しい青年を、うっかり好きになってしまったばかりに
仕事も弟子も信用も失ってしまった
お金と名声が尽きたら
若い恋人は、こんな年増の自分を捨てるかもしれない…
それだけでも、かなり苦しいのに
さらには毎日、こんな醜い自分の前に姿を現す
若くて未来ある少女には、全く悪気がない
この子こそ、自分の恋人のパートナーに相応しい
そう、わかっている
わかっているけど、受け容れられない
許せない
何もかもが憎くて仕方がない
毎日毎日、床に臥せり
何も出来ることは、ない
外にも行けず、誰かに頼まなくては起きることもできない
悔しくて悲しくて、どうにもならない
もう、呪い殺したいほど憎しみが募って行く
豊志賀さん、それは病気にもなりますわよ…
わかる、わかります。
うーん、私だったら
どうするかな、と考える
そう、この時代
「人生50年」の時代だったそうな
「50歳まで生きれば十分」という時代
織田信長が愛したと言われる伝統芸能「幸若舞」の『敦盛』の一節でも
「人間50年」と謳われているように
日本人の平均寿命が50歳を超えたのは、戦後になってからと言われ
医学も発達していなかった当時、人生は50年も生きるのがやっとだったという時代
豊志賀は39歳だった
「50年が人生の終焉」と考えるこの時代で言うと
40歳は既に「老婆」だ
一方、新吉は21歳、お久は17歳
「娘さん」と言われるのは16、17歳くらい
21歳は、若造でもあるが「大人」と認められた年齢
そして40歳は「老人」
今でこそ
”Age is just a number”(年齢なんてただの数字の羅列に過ぎない)
などと粋な表現もあるけれど
この頃は、女性の立場も低かった
もう、このまま生きるも地獄
先に死ぬのも地獄
とても簡単には言い表せないほどの苦悩を感じてならない
「幽霊画」には
そんな女たちの
恨みと悲しみ、諦めや後悔の念が、溢れているように私は思う
哀しい目をした幽霊
一点を凝視し、憎しみの目をした幽霊
焦点が定まらず、何か諦めてしまったような表情の幽霊
生者であるにも関わらず、死相がまとわりついた表情の女
自分ではどうにもできない運命を背負っている
生者と死者
気分転換、とか
環境を変える、とか
気晴らしをする、とか
そんなことが出来なかった時代
情報収集もままならず
自由も娯楽もなかった時代
あぁ、私だったら
一体、何を思ったのだろう?
だからこそ
それを想像し、形にした当時の「幽霊画」は
幽美と悲哀に満ちていて
魅力的なのだと、私は思う
「幽霊画の持つ魅力」
体験されたい方は、是非「全生庵」へ
今年もまだ、間に合いますよ。
全生庵
東京都台東区谷中5丁目4-7
※東京メトロ千代田線「千駄木駅」より徒歩約5分
※JR山手線・ 京成本線「日暮里駅」より徒歩約10分
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